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GPRを利用した洪水後の損傷査定

 

使用機器:LMX200

   
 

2017年春、カナダ ケベック州において未曽有の大雨により大規模な洪水が発生しました。モントリオールを流れる河川の堤防が決壊し、周辺地域一帯が浸水しました。
その際ある地域の桟橋が2週間に渡って水深90cmの深さに完全に水没しました。

洪水が引いた後、桟橋に崩壊箇所が確認されました。歩道上の連結レンガが崩れ、空洞が存在する場所が数箇所見つかりました。
桟橋の壁を調査するといくつかの亀裂が見つかり、さらに付加的な構造基盤が流された危険性が浮上しました。
地方自治体は、桟橋にはさらに未確認の空洞が存在するかもしれず、それにより桟橋が崩壊、歩行者が被害を受けることを懸念しました。
そこで自治体はケベック州の物理探査業者に、桟橋を探査して危険箇所を報告することを依頼しました。



図1:桟橋表面のコンクリートと格子レンガが崩れ内部構造物と空洞が露呈


図2: LMX200を使用し未曽有の洪水により損傷を受けた桟橋を全長3.8kmに渡ってデータを収集

探査業者は当初、空洞探査に電磁誘導法を利用する計画でした。しかし桟橋には、ごみ箱やベンチなど電磁誘導探査の妨げになる金属性のものが多くあり、そのことが結果に悪い影響を及ぼすことが懸念されました。それを回避するため、金属性の物質による影響のない地中レーダを使用することにしました。

多くの障害物に加え、桟橋の特殊な形状もあり、XYグリッド形式でのデータ収集はかなり難しいと予想されました(図3)。そこでGPSを併用してGPRデータの位置情報を取得しながらデータ収集を行う方法をとりました。この方法を利用すれば、グリッドを設定するよりはるかに迅速に桟橋のすべてのエリアを網羅することができます。
データは、歩道上の印をもとに一律平均0.5m間隔になるよう設定された直線上で収集されました(図4)。
この全長3.8kmのデータ収集は2名の技術者がわずか4時間で完了させました。



図3(左):上空から撮影した桟橋。障害物が多数確認できる。
図4(右):データ収集測線。GPSの位置情報取得機能を利用することでグリッド設定よりも迅速にかつすべての探査範囲をスキャンできる。

データ収集完了後、EKKO_Projectプロセッシングソフトウェアのスライスビュー・ラインモジュールを使用して桟橋全体の深度スライスを作成しました。
桟橋の下には桟橋の主要な構成要素として利用されている巨岩があり、その岩が洪水で流されることはないことはわかっていましたが、細かい砂と砂利で構成される浅瀬部分が流失したかもしれないという大きな不安がありました。

深度スライスを確認すると、高振幅反応は空洞を示唆している可能性がありました。これは空洞内の空気または貯まった水が、上層の物質に対し大きな差異を示すため、強いGPR反射が構築されるためです。図5は深度約30cm付近の深度スライスで、赤と黄色は強い反射部分を、青と緑は弱い反射部分を示しています。
図に示した3箇所はすでに表面が崩壊していました。



図5(左):深度約30cmの深度スライス。すでに崩壊しているエリアと空洞の可能性があるエリアに強いGPR反射が見られる(赤色と黄色のエリア)。
図6(右):深度約160cmの深度スライス。桟橋格子レンガ部分の下深い位置にある巨岩と玉石からの強い反射が見られる。この付近が地中レーダ電磁波の最深到達地点である。

この調査中に観察された興味深いデータの様相があります。例えば、地中レーダから放射された電磁波は桟橋の格子状レンガ部分で最も深くまで到達しており、一方、表面がコンクリートの部分はそれよりかなり浅い部分までしか到達していませんでした。(図7断面図および図6 深度160cm付近の深度スライスの強反応部分(赤色)参照)



図7:桟橋を横断する特徴的なGPR測線。GPRの放射電磁波は表面が格子レンガか強化コンクリートかによって進入度が変わってくる。GPR電磁波は表面が格子レンガの場合より強くより深部まで進入するが、これはコンクリートに比べ導電率が低いためである。

これは驚くに当たることではなく、コンクリートは比較的高い導電率を有しており、そこで地中レーダの電磁波が減衰し、深部まで到達しないということが起こります。格子状レンガの下にある砂、砂利、玉石、岩石などははるかに低い導電率のため、レーダの電磁波は減衰することなく深部まで到達できるのです。

桟橋全体のGPRスキャンをもとに、請負業者はただちに空洞が存在する可能性のある、強いGPR反応が見られた浅いエリアを特定し、自治体に報告書を提出しました。報告を受けて自治体は、桟橋の崩壊が懸念されるエリアの中から、表面から深度60cm以内に空洞の可能性が検出された場所に的を絞り、格子レンガを移動させ、浅い部分の空洞を埋める作業を行いました。

さらに深い位置にある空洞に対処するために、桟橋の壁に確認された縦方向の亀裂にコンクリートを注入しました。

地中レーダを使って調査することで、自治体は迅速にかつコスト効率よく、洪水によって受けた桟橋の内部損傷を査定し、利用者に被害が及ぶ前に的確な対処をすることができました。


   

 

 

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